これから高齢犬が減り始めると、動物病院を取り巻く経営環境ががらりと変わります。そんな時代を生き抜くためには、「強い動物病院」にしていく必要性があります。
そこで、数多くの門下院長を育てられた川上勝彦先生がどのようにして強い動物病院づくり(人材育成と雰囲気づくりの観点)をされてきたのかを奥様に伺いました。
動物病院の人材育成と雰囲気づくり
獣医師の人材育成
Q: 川上先生の門下からは有能な院長先生が多く生まれています。
まずは、川上先生の独特な育て方とか、教え方などについてお聞かせください。
川上夫人: よくそう聞かれることがあるのですが、
私は、川上が良かったからではなく、素質ある先生ばかりが川上の元に集まって来たからだろうと思っています。
この動物病院 川上には、川上の出身校である鹿児島大学の坂本教授が自分の教え子を勤務医として送ってくれていました。
その先生方は、実に個性的で面白い。自由な発想ができる方ばかりでした。
その先生方は現在、県下のトップクラスの動物病院院長になっていますが、それは先生方に才能があったからだろうと思っています。
動物病院の雰囲気づくり
Q: 自由な発想ができるようにと、川上先生が動物病院の雰囲気づくりなどをされていたからではないのでしょうか。
川上夫人: 現在鹿児島で開業されている先生がこんなことを私に話してくれたことがあります。
それは、先生がこの動物病院の勤務医3年目の時の話です。
その勤務医先生は3年間も居るのに、骨折の手術を一度もしたことがないので、院長の川上に「手術をやらせてほしい」と言ったそうです。
すると川上は、「いいよ、やってみな。責任は僕がとるから」「僕が助手をやってもいいよ」と言ってくれたそうです。
院長と勤務医先生が一緒になって色んなことをしていたのは事実です。
それもたいていは、勤務医先生からの提案でした。
各先生が独立開業した後でも、「川上一門会」を立ち上げたりもしていました。
院長とその先生方とのつながりは、川上が亡くなるまでずっと続いていました。
Q: 川上先生が病気になられた時はどうされたのでしょうか。
川上夫人: 川上が入院した時のことですが、「一門会」の呼びかけ人だった先生が「これから、1人ずつ、送りますから」と申し出てくれました。
自分の病院も大変だというのに、ローテーションを組んで、獣医師先生を送ってくれました。
この時、私は門下の先生方にこの動物病院 川上は助けられたなと思いました。
本当に有り難いことでした。
Q: 鹿児島大学の坂本教授のご縁で卒業生が次々と送られて来て、
その先生方が「一門会」を作って集まる機会を設け、今度は川上院長先生がピンチになった時は皆で支え合う。
川上先生がご縁、人間関係を大事にされてきたことで数多くの県下トップクラスの病院を作る院長を輩出することにつながったのだと思います。
川上夫人: 香川県で開業されている先生からは、夏にはスイカが送られてくるのですが、
その先生は獣医師のほかに、農業もされているようです。
畑はおじさんから継いだようですが、スイカの作り方は飼主さんから教えてもらっているとのことで診察室以外での付き合いもすごくされているから、とにかく、飼主さんに人気がある。
土日には車の案内役が必要なほど、流行っている動物病院になっています。
また、東京で開業した先生の動物病院では、患者さんからこんなことを言われるそうです。「この病院の院長先生は誰ですか」と。
川上門下には本当に人間味豊かな先生ばかりが居て、自分の個性を活かしたことで病院を県下のトップクラスに出来たのだろうと思います。
診療で重要なこと|触診の大切さ
最後に川上が診療のことでよく話していたことをお話します。
それは、1つは、「触診の大切さ」。もう1つは、「薬を渡す時のひと工夫」です。
「今の人は動物の身体に触らない。まずは触ることが必要。触ったら、ある程度のことはわかります。よく触りなさい」
そして、薬を渡す時には、
「例えば、目が悪かった場合、目薬を付けて下さいとただ渡すだけはダメ。実際につけてあげて、飼主さんにみせることが大事。ワンちゃんの目や耳が汚ければ、きれいに抜いて上げるくらいのことはサービスしてあげないと」
と言っていました。
川上久美子 元院長夫人(動物病院 川上・栃木県足利市)
コメントを残す